(miércoles, 1 de noviembre 2023)
文・写真/志風恭子
Texto y fotos por Kyoko Shikaze
9月は秋らしくなったと思っていたら何故か10月に暑さがぶり返し、路線バスで冷房が入るほど。日本でも今年の暑さは長引いたようですが、半袖をしまうタイミングが見えません。セビージャは観光都市なのですが、例年以上に多いという観光客の中にはタンクトップにサンダルで闊歩している人も。
日本でも、京都などで問題になっているオーバーツーリズム。スペインでも短期滞在用アパートの増加で、市内中心部で賃貸住居が見つからない、見つかっても非常に高い、短期アパート滞在者がゴミを指定のところに捨てない、など色々問題が。セビージャも観光都市で、観光業に直接間接に携わっている人も多いので、観光客増加は嬉しい反面、問題も増加。フラメンコで言えばマドリード、セビージャに新しいタブラオができるなどして仕事の場は増えていますが、留学生の宿泊先の賃料が値上がりするなど、円安や航空運賃高騰とあいまって厳しい部分もありそうです。
【アンダルシア・フラメンコ】
[プロモーションビデオ]
https://youtu.be/CdfgmuD8LxI?si=XWmSQL3srJFyjfEp
これまでフラメンコ・ビエネ・デル・スール、フラメンコは南から、と言うタイトルで親しまれてきたアンダルシア州主催のフラメンコ公演シリーズ。今年から名前をアンダルシア・フラメンコと変えて、9月21日から10月7日まで週末の3日間、9公演が行われました。舞踊が3公演、カンテが4公演、ギターとピアノの公演がそれぞれ1公演、まだ17歳だという若手から還暦を過ぎたベテランのアントニオ・カナーレスまで、バラエティに富んだプログラムと言っていいでしょう。
そのうち8公演を見たのですが、個人的には今一番完璧な歌い手かもしれないと思わせるダビ・ラゴスのピアノ(アレハンドロ・ロハス・マルコス)とサックス(フアン・ヒメネス)とのトリオでの『デル・シレンシオ』、そしてピアニスト、ドランテスとスペイン系フランス人コントラバス奏者ルノー・ガルシア・フォンスの『パセオ・ア・ドス』が心に残りました。前者はフラメンコという言語で歴史上の出来事を歌いメッセージを伝えるだけでなく、ギター伴奏ではなく現代音楽的要素もあるピアノとサックスの伴奏ながら、いやだからこそ、ダビのフラメンコ性が際立つもので、後者はフラメンコにベースを置きつつ自由にはばたくそのスタイルが、イスラエル・ガルバンを思い出させました。そういえば前者の3人もイスラエルの共演者。やはりイスラエルは、現代フラメンコの象徴的存在なのかもしれません。
ドランテスとルノー・ガルシア・フォンス
舞踊では、カナーレスが魅せる間合いの妙や気合の一瞬、カンテではエストレージャ・モレンテが音響トラブルでマイクなしで歌ったプロらしさも印象に残ります。
アントニオ・カナーレスと共演者たち。左からダビ・デ・アラアル、踊り手マティアス・カンポ、歌い手マヌエル・デ・ラ・トマサ、カナーレス、エル・ガジ、パーカッション奏者パコ・ベガ
反面、アルヘンティーナや17歳の歌い手レジェス・カラスコはカンシオンのようでカンテの醍醐味を味わうことができなかった
なお、この公演シリーズ、来年春に第二弾があるかも、とのこと。お楽しみに。
【セビージャギター祭】
10月3日から、セビージャではギターフェスティバルが開催されました。2010年に始まったということなので今年で第14回。1981年から開催されているコルドバのギター祭ほど大規模ではないけれど、ギター界にとっては重要なイベントの一つと言えるのではないでしょうか。元々はクラシックギターに特化したフェスティバルだったのですが、第4回でヘラルド・ヌニェスが出演し、以後、毎年フラメンコギターの公演も行われており、日本でもお馴染みのカニサーレスやダニ・デ・モロンらも何度か出演しています。
このフェスティバルの特徴の一つが、マイクを使わないこと。メイン会場は450席ほどのホールだし、クラシックなら当たり前なのでしょうが、フラメンコはマイクを使う方が普通。この同じホールで以前行われていたフエベス・フラメンコでもそうでした。昨年のビエナルでのギターソロのリサイタルシリーズもこの同じ会場でしたが、パーカッションやパルマなどの入らない全くのソロではあったけど、マイクはありました。なので、演奏する方はもちろんだと思うのですが、聴き手であるこちらにとっても新鮮な体験です。
それに加え、今年のプログラムでは前半がクラシック、後半がフラメンコというジョイントリサイタルも4公演あり、普段ほとんど聴く機会がないクラシックギターのソロを聴くことができたのも貴重な経験でした。それはきっと他の聴衆にとっても同じことだったでしょう。私が観ることができた10月12日の公演は、超絶テクニックのクラシックギタリスト、キューバ出身のザルツブルグ音楽院教授マルコ・タマジョと、フラメンコファミリーに生まれ育ち、ギタリストと言うよりもフラメンコなパコ・フェルナンデスのジョイントコンサートはギターという楽器の幅広さを感じさせてくれました。繊細な銀細工のようなマルコの演奏とパコの太い音。全く違うアーティストがギターという楽器でつながっている面白さ。14日の公演は今年唯一のフラメンコのみの公演で、ペドロ・マリア・ペーニャがギターソロ3曲のあと、ルイス・エル・サンボを迎えて歌伴奏で3曲。ルイスの昔ながらのカンテが耳に心地よく、1時間弱と短くも充実した公演でした。
【ヘレスのフラメンコ学会のプレミオ・ナショナル】
ヘレスのフラメンコ学会のプレミオ・ナショナルの受賞者が10月11日、以下の通り発表されました。なお、各人の紹介コメントは志風です。
カンテ/ビセンテ・ソト
1954年ヘレス生まれ。ヘレスの巨匠故ソルデーラの次男。タブラオなどで活躍。これまでに10枚以上のソロアルバムがある。
©︎ Kyoko Shikaze/Caja Madrid
舞踊/エバ・ジェルバブエナ
1970年ドイツ生まれのグラナダ育ち。2001年舞踊国家賞。現代演劇や舞踊とコラボレーションした作品など意欲的な創作活動で知られる。ソレアが絶品。
©︎ Kyoko Shikaze/en Jerez, 2019
ギター/ラファエル・リケーニ
1962年セビージャ生まれ。10代でコルドバのコンクール優勝、24歳で出したデビューアルバム が絶賛され、ソリストとしての名が不動に。健康上の問題を経てエンリケ・モレンテらの伴奏で復活。
©︎ Kyoko Shikaze/en La Unión, 2010
マエストリア(巨匠賞)/カルメン・リナーレス
1951年ハエン県リナーレス生まれ。若くしてマドリードに出、タブラオなどで活躍。80年代からソロで注目され、 96年のアルバム『アントロヒア・デ・ラ・ムヘル・エン・エル・カンテ』でその名を不動のものとした。
普及/シルクロ・フラメンコ・デ・マドリード
マドリードのアフィシオナードたちによる文化協会で、第一線で活躍するアーティストのライブなど、毎月複数のイベントを行っている。会長はアントニオ・チャコンやマヌエル・トーレのSP本でも知られるカルロス・マルティン・バジェステル。
研究/ホセ・ルイス・オルティス・ヌエボ
1948年マラガ県アルチドーナ生まれ。詩人、フラメンコ研究家としてペリコンやティア・アニカ、エンリケ・エル・コホらの聞き語りや昔の新聞からフラメンコ草創期の姿を浮き彫りにした本などがある。セビージャのビエナル誕生から長い間監督を務めた。
名誉賞/ロメリート・デ・ヘレス
1832年ヘレス生まれ。舞踊伴唱を得意とし、マティルデ・コラルらの伴唱を長く務めた。ヘレスのカンテ黄金時代を生き、歴史に残る名盤『カンタ・ヘレス』にも参加している。
また、ヘレスのアーティストを対象としたコパ・ヘレスは
カンテ/ルイス・エル・サンボ
1949年ヘレス生まれ。パリージャやテレモート、ソルデーラらの血筋。魚屋をしていたが52歳からカンテに専念。昔ながらのヘレスのカンテを今に伝える貴重な存在。
©︎ Kyoko Shikaze /en Sanlúcar , 2010
ギター/アルフレド・ラゴス
1971年ヘレス生まれ。10代からプロとして活躍。イスラエル・ガルバンらへの舞踊伴奏で頭角を表し、エンリケ・モレンテらの歌伴奏も務める。2020年ビエナルのギター賞受賞。
©︎ Kyoko Shikaze/en Sevilla, 2019
舞踊/ヘマ・モネオ
1991年ヘレス生まれ。父はギタリスト、母はトルタやマヌエル・モネオらの妹。13歳で地元のタブラオでプロデビュー。以後、タブラオやフェスティバルなどで活躍。ファルキートらとも共演している。
©︎ Kyoko Shikaze/Fiesta de la Bulería, Jerez 2018
なお、授賞式は11月4日ヘレスのアタラジャ博物館で行われるそうです。
【筆者プロフィール】
志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。
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