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スペイン発☆フラメンコ・ホットライン

(miércoles, 4 de octubre 2023)


文/志風恭子

Texto por Kyoko Shikaze


 9月になって気温が下がり、過ごしやすい日が続いているセビージャです。8月中は最高気温が40度を超える日も多く、日本に比べ湿度が低いとはいえ、気温が体温を超えると外に出る気はおきません。9月3日、4日はマドリード近辺ではサッカーの試合が予報で中止になるほどの大雨で、大きな被害が出るなどありましたが、アンダルシアにも久々の雨が。こちらでは水不足が心配されていることもあり、雨はうれしいのですが、度を越すことなくそこそこに降ってほしいところですが、なかなかうまくいきませんね。まだ野外公演も多いこの季節、公演を観に行く時は羽織るものを忘れずに。セビージャでは秋から冬にかけての季節は比較的雨が多く、この時期の野外公演は雨天中止になることもありうるので注意が必要です。


【カニサレスに音楽賞】

 まずはうれしいニュースから。この夏、日本各地でも素晴らしいコンサートを聞かせたギタリスト、フアン・マヌエル・カニサレスが2023年の「プレミオ・ナショナル・デ・ムシカ」というスペイン文化スポーツ省が毎年、各分野の功労者におくるナショナル・プライズ、国民賞、国家賞とも訳される賞の音楽部門で、演奏者としての受賞が発表されました。フラメンコアーティストの受賞は2007年のミゲル・ポベーダ以来で、エンリケ・モレンテ(1994)、マノロ・サンルーカル(2000)、カルメン・リナーレス(2001)、ポベーダに次ぐ5人目の受賞となります。

 受賞理由に「クラシックとフラメンコの壁を壊し、統合するだけの奏者としての実力」とあるように、その活躍はフラメンコにとどまらず、アルベニス、グラナドス、ロドリーゴとスペインを代表する作曲家たちの作品を演奏、録音し、ベルリン・フィルをはじめ、世界のオーケストラとも共演しています。フラメンコでも自分のソロアルバム以外でも100枚以上のアルバムに参加しています。

カニサレス/2023.10志風

2007年 9月Málaga en Flamenco でのリサイタルにて ©︎ Kyoko Shikaze


 1966年生まれというから今年57歳。近年はオーケストラとの共演曲を自ら作曲、上演するなど、今回は演者としての受賞でしたが、作曲部門で受賞してもおかしくないほどの活躍をみせています。今後の展開も楽しみです。


【舞踊賞はラファエラ・カラスコ】

 音楽賞の発表から数日後、舞踊賞の発表が行われ、クリエーション部門でラファエラ・カラスコが受賞しました。「作品の独自性」「次世代への個性的なスタイル」がその受賞理由。かつて彼女の舞踊団メンバーだったマヌエル・リニャンやアナ・モラーレスがすでに受賞しているので遅きすぎた気もするが、ようやく正当な評価がされたということでしょう。

ラファエラ・カラスコ/2023.10志風

2018年ビエナル公演の公開リハーサル/記者会見にて©︎ Kyoko Shikaze


 ラファエラ・カラスコは1972年セビージャ生まれ。マティルデ・コラル門下で、後にマリオ・マジャ舞踊団で活躍。2013年から3年に渡りアンダルシア舞踊団監督をも務めました。現在は自らのカンパニーによる公演活動の傍、クルシージョなどで後進の指導にもあたっており、多くの若手が彼女の影響を受けています。おめでとうございます。


【夏のフェスティバルから秋のシーズンへ】

 日本の進学は4月ですが、スペインは9月。6月からの長い夏休みを終えてようやく学校も始まりました。劇場シーズンもこれに準じて、10月からが新シーズンというところが多いようです。

 いわゆる夏のフラメンコ・フェスティバルも、9月上旬までという感じ。8月下旬には今年で10年目となった北スペイン、パンプローナのフラメンコ・オン・ファイア、というフェスティバルも開催されました。歴史こそ新しいですが、一流のアーティストを揃え、またバルコニーから聴かせる無料公演やフュージョン系の公演などで注目されています。今やビエナルやヘレス、マドリードのスーマ、フランスのモン・デ・マルサンやニームのフェスティバルと同じように、フラメンコ界にとっても重要なフェスティバルと認識されるようになりました。今年も大劇場ではファルキートやトマティート、ジェルバブエナ、エストレージャ・モレンテらが出演。また若手ギタリストたちによる公演などの独自の企画もありました。

トマティート/2023.10志風

Tomatito のバルコニー公演 ©︎Flamenco on Fire


フラメンコオンファイヤ/2023.10志風

『アルサプーア』©︎Flamenco on Fire


 歴史のあるヘレスのフィエスタ・デ・ブレリアも、以前のように一晩だけではなく数日間にわたって行われるようになりましたし、フラメンコのフェスティバルの形も時代につれ、世につれ、変わっていきますね。

Fiesta de la Bulería, Juana la del Pipa ©︎Tamara Pastora -Flamenco de Jerez


 そして9月。

 セビージャのセントラル劇場ではフラメンコ公演も行われました。

 ロシオ・モリーナによる『シクロ・フラメンコ、メランコリア・イ・アネロ』。哀愁と情熱というタイトルで、9月15日から17日の3日間に渡って行われました。初日はロシオとメネンデス・ペラジョ大学の生徒の対話、翌日はロシオがセビージャ郊外にもつスタジオで、アーティストや観客らとの対話、そしてロシオによる『講演のためのドラマツルギー Lo inefable(言葉にできないもの)』が上演されました。3日目はロシオがコミッショナーとして関わり、踊り手エル・チョロによる『講演のためのドラマツルギー アルサ、テオリア・デ・ロ・エスポンタネオ』。エスポンタネオは「自然発生的な、自発的な」という意味なので、そういったものの理論、ということになりますね。自然発生的な、即興的なものこそ自分のフラメンコじゃないか、と思ったということなのでしょう。いつもより肩の力も抜けてナチュラルに、同郷のヘスス・コルバチョ、フランシスコ・ロカと3人で、言葉で、リズムで、全身で、フラメンコで会話していく感じ。

ロシオ・モリーナ/2023.10志風

講演/公演後に劇場のテラスで。左からヘスス、フランシスコ、チョロ、ロシオ・モリーナ、そしてアルゼンチン人のアーティスト、マティアス・ウンピエレスと一人置いてペドロ ©︎ Kyoko Shikaze


 講演のためのドラマツルギーはアルゼンチン人のアーティストのプロジェクトで、アルゼンチン、ドイツと公演して、スペインでは長年イスラエル・ガルバンのブレーンとして多くの作品にも関わっているアーティスト、ペドロ・G・ロメロが協力して実現したとのことです。外からの力で新しい自分を自分の中に見つけていくという感じかもしれませんが、とても興味深く素晴らしい試みだったと思います。が、これはなんと22/23年シーズンのプログラム、という扱い。翌週のフラメンコ公演シリーズ、アンダルシア・フラメンコ(旧フラメンコ、ビエネ・デル・スール)も同じ扱いのようです。

 セビージャのフラメンコの新年度は、マエストランサ劇場の10月公演からのようです。


【セビージャでの日本人公演】

岸田瑠璃/2023.10志風

シギリージャを踊る岸田瑠璃 ©︎ Kyoko Shikaze


 9月15日、セビージャのペーニャ、セロ・デル・アギラで『シン・フロンテーラⅢ』公演が行われました。セビージャ出身で日本在住の歌い手、エル・プラテアオが日本人アーティストと共に行うペーニャ公演もこれが3回目。今年は全回出演の歌い手遠藤郷子のほか、セビージャ留学中の瀬戸口琴葉と岸田瑠璃、滞在中の出水宏輝の3人の踊り手たちが出演。ペーニャと縁の深いトゥデラの伴奏で、タイトル通り、フラメンコを愛する心に“国境はない”ことをアピールした公演だったと思います。

遠藤郷子/2023.10志風

ソレアを歌う遠藤郷子 ©︎ Kyoko Shikaze


出水宏輝/2023.10志風

出水はタラント ©︎ Kyoko Shikaze


パコ・エル・プラテアオ/2023.10志風

パコはファンダンゴ ©︎ Kyoko Shikaze


瀬戸口琴葉/2023.10志風

瀬戸口はソレア・ポル・ブレリア ©︎ Kyoko Shikaze


【訃報/マリア・ヒメネス】

 9月7日早朝に、歌手マリア・ヒメネスが亡くなりました。1950年セビージャのトリアーナ地区の生まれというから73歳。76年レコードデビュー。独裁政権終了後の自由な空気を象徴するような存在として人気が出ました。フラメンコ歌手ではなく、日本でいう歌謡曲の歌手的存在でしたが、元々はルンバなどを歌いタブラオ、ロス・ガジョスなどで活躍したフラメンカ。初期のアルバムはパコ・セペーロやエンリケ・デ・メルチョールらが伴奏しています。

 遺骸は市役所に安置され多くの人が弔問に訪れました。翌日は馬車に引かれてトリアーナのサンタ・アナ教会に移され、ミサが行われた後墓地に埋葬されましたが、馬車がトリアーナに着くとブレリアのパルマになったのも彼女ならではのことでしょう。


【筆者プロフィール】

志風恭子(Kyoko Shikaze)/1987年よりスペイン在住。セビージャ大学フラメンコ学博士課程前期修了。パセオ通信員、通訳コーディネーターとして活躍。パコ・デ・ルシアをはじめ、多くのフラメンコ公演に携わる。


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