(lunes, 11 de diciembre 2023)
文/エンリケ坂井
Texto por Enrique Sakai
ミラブラーの最終回
ミラブラーの3回目。ミラブラー(ス)は基本的には3つのメロディーの集合体だから、今回は3つ目、最後のパートを取り上げよう。
この部分は、グラン・クロニカ・デル・カンテ vol.33の特集に登場したバルデラーマ、ピント、センテーノ、チャコンの誰ひとり録音しなかった。その理由は恐らくSPレコードの録音時間にあって、3分という時間の中でギターのイントロから歌①、そして間奏があって歌②まで進むともう歌③を歌う十分な時間が残っていない、というのがその理由だろう。
さてミラブラーの名手で思い浮かぶのがラファエル・ロメーロ「エル・ガジーナ」(CDジャケット写真)だ。1988年に来日して日本での初めての本格的カンテ・リサイタルを催し、その中でミラブラーも毎回歌ってくれた。ガジーナは自由な雰囲気、自然さ、粋さ、そして今の人たちには出せない古い色や昔の空気を我々に感じさせてくれる実に稀有(けう)な存在だった。例えば彼がカーニャでラメントを母音でイ~イ~イ~と歌うとその声から私が感じたのは昭和や大正、明治ではなく遥か昔、千年も二千年も前の、あるいは古代の祖先の声だった。
横道に逸れたが、そういうわけで歌③、野菜と果物売りのプレゴンはエル・ガジーナの録音から採用しました。
(Letra)
Venga usted a mi puesto, hermosa,
y no se vaya usted, salero
¡Castañas de Garalosa!
¡Yo vendo camuesa y pero!
¡Ay, Marina!
Yo traigo naranjas
y son de la China,
Batatitas morondas,
suspiritos de canela,
<malacatones> de Ronda
y castaña, cómo <vajean>.
(訳)
寄っといで、そこの別嬪(べっぴん)さん、
行かないでよ粋な姉さん、
ガラローサの栗だよ!
山りんごに梨りんご!
ああ、マリーナさん、
オレンジだって持ってきてる、
それもラ・チナ産だよ。
剝(む)いたサツマイモに
ニッケ入りの玉子菓子、
ロンダ産の桃もあるし
ほっかほかに焼いた栗もね。
*<malacatones> → melocotónes(桃の複数形)の訛り
*<vajean> → vahean → vahear(湯気を立てる)の3・複
(Coletillo)
Te quiero yo
como a la mare que me parió.
(訳)
あんたが好きだ
生んでくれた母さんくらいに。
見て解るように、これはミラブラーに特有の形の詞であり互換性がない。それは独自の型や雰囲気を持っているという美点になるが、一方で発展しにくい面もある。しかしこの型を守りながらも最近では新たな歌詞も生み出されており、ミラブラーは様々な可能性を秘めていると言えよう。
【筆者プロフィール】
エンリケ坂井(ギタリスト/カンタオール)
1948年生まれ。1972年スペインに渡り多くの著名カンタオールと共演。帰国後カンテとパルマの会を主宰。チョコラーテらを招聘。著書『フラメンコを歌おう!』、CD『フラメンコの深い炎』、『グラン・クロニカ・デル・カンテ』vol.1~33(以下続刊)。
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